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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> 第2回 濁点・半濁点の謎

川原繁人

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Illustration ryuku

<今回の質問>
「日本語には『゛』・『゜』が付く文字と付かない文字があるのは何でですか?」 6年生・モモ

 さて1時間目の授業が本格的に始まります。音声学について学ぶ時、まず学ぶ人に「自分がどのように口の中を動かして音を発音しているのか」を感じてもらうことが大事だと考えています。ですから、「なんで濁点が付く文字と付かない文字があるの?」という質問を皮切りに、生徒たちが自分の発音の仕方を見つめ直していく練習から始めることにしました。

濁点って何なの?

川原 はい、ではみなさんからもらった質問に答えていきます。モモは質問をいっぱいくれた。

モモ はい。

川原 ありがとうね。「日本語には『゛』・『゜』が付く文字と付かない文字があるのは何でですか?」。非常にいい質問ですよね。ことばについて考える時って、自分で例を考えてみることが大事だと思うの。だから、点々が付く文字を挙げていこう。付くのと付かないのを挙げていこうか。

おうしろう はい。だんご。

川原 「だ」と「ご」だね。単語じゃなくて文字で考えていっていいかな?

―― がぎぐげご。

川原 (板書しながら)がぎぐげご、ね。ほかには?

―― ざじずぜぞ。

川原 ざじずぜぞ。はい、なぎ。

なぎ ばびぶべぼ。

川原 ばびぶべぼ。はい。ここで既に面白い傾向が出てきてるのわかる? さっき「点々が付いている例と付かない例を考えてみよう」って言ったんだけど、付く例のほうがぽんぽんと出てくるんだよね。逆に付かない例って意外に出てこなくって考えるのが難しい。じゃあ、付かないのは? はい、おうしろう。

おうしろう あいうえお、かきくけこ。

川原 あいうえお。かきくけこは付かないかな?

―― かきくけこは付いてるよ。

おうしろう そっか、難しい。

川原 そうだね、あいうえおは付かないね。はい、みあ。

みあ らりるれろ。

川原 らりるれろは付かないね。じゃあ、ゆう。

ゆう なにぬねの。

川原 なにぬねの、いいね。こうやって答えてくれるだけで先生はうれしいよ。今のシャイな大学生たちに見せてあげたい。はるま。

はるま やゆよ。

川原 はい、せな。

せな わをん。

川原 わをん。じゃあ、これ最後にしようか。こうやって「濁点が付く文字」と「濁点が付かない」文字に分かれるんだね。

濁点の違いを自分で発音してみよう

 このふたつのグループの区別をみんなは知っている。じゃあ、この点々って何を表しているのか確かめるためにみんなで発音して考えてみよう。みんなで「か・か・か」と「が・が・が」って言ってみて。

―― か・か・か。が・が・が。

川原 何が違う? はい、はるま。

はるま 「か・か・か」だと、何か「すんっ」てすかしているみたいな感じがあるけど、「が」だと何か「どすん」としてる。

川原 いいね、すごい指摘だね。こういう感覚については、あとでもうちょっと詳しくお話し出来るかもしれない。ほかに、はい、みあ。

みあ 何か表現が変かもしれないんだけど、「か・か・か」だと何かちょっと弱いイメージがして、「が・が・が」だと力強い感じがする。

川原 いいねえ。はい、りゅうへい。

りゅうへい 「か」は何か「なめらか」みたいな感じだけど、「が」は何か「かくかく」しているって感じ。

川原 なめらかで、かくかく。いいねえ。はい、せな。

せな 「か」のほうだと何か柔らかいっていう。

川原 「か」だと柔らかい?

せな 「が」だとすごく硬いっていうイメージ。

川原 「が」が「硬い」。オッケー、いろいろ出てきたね。おうしろうもいこうか。

おうしろう 「か」はよくわかんないけど、「が」は何か詰まっているような。

***補足***  
 ここで生徒たちが挙げてくれた感覚は、「すんっ」など発音してみた感覚を表現しようとしたものも含まれると思いますが、「力強い」や「硬い」など音そのものが喚起する意味も含まれていると思われます。後者のように、音が直接意味を生み出す現象を「音象徴」と呼びます。音象徴に関しては、のちのちに議論するプリキュアやポケモンの名前の分析で戻ってくることになります。ともあれ、小学生がしっかり音の感覚について感じられ、それを言語化できるということに、私はとても感心しました。

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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