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「ことば」と「音」で遊ぼう! <小学生と学ぶ超言語学入門> 第3回 「ぱぴぷぺぽ」の秘密

川原繁人

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Illustration ryuku

<今回の質問>
「ぱぴぷぺぽの言葉はよく聞くけど、何で英語の言葉が多いの?」 
4年生・なみ

「はひふへほ」は昔「ぱぴぷぺぽ」だった

川原 実際日本語では昔、私たちが今「はひふへほ」と言っているものは、「ぱぴぷぺぽ」だったの。これには、色々な証拠があります。例えばひよこは何て鳴く?

―― ピヨピヨ。

川原 ピヨピヨだね。旗はどうやってはためく?

―― パタパタ。

川原 パタパタだね。震えるときはどうやって震える?

―― ぷるぷる。

川原 ぷるぷる震えるね。光ったらどんなことば使う?

―― ぴかぴか。

川原 「はひふへほ」の裏には「ぱぴぷぺぽ」が隠れているのがわかるでしょう? で、何で「は」と「ぱ」にこんなつながりがあるのかっていうと、「はひふへほ」は、昔「ぱぴぷぺぽ」だったからなのよね。これは上田萬年という学者が1898年に発表した論文の中で報告されています。だから、これがわかったのは結構最近なの。

 これは和光ならではかもしれないのだけど、アイヌの踊りやった? (注:和光小学校では、学校祭などのために伝統的な踊りを教え、その中にアイヌの踊りも含まれる。)

―― うん。

川原 アイヌ語というのもよく研究されているんだけど、アイヌ語を見ると

「はり」が「ぱち」

「ひかり」が「ぺけれ」

「はかり」が「ぱかり」

「はし」が「ぱしゅい」

「ほね」が「ぽね」

「ふり」が「ぷり」

って言うんだって。これも上田萬年の論文に出ているんだけど、多分昔アイヌ語は日本語からこれらの単語を借りたんだね。昔は「はひふへほ」が「ぱぴぷぺぽ」だったから、これらの単語を「ぱぴぷぺぽ」を使って借りて、アイヌ語の形はそのまま残った。日本語ではなぜか「ぱぴぷぺぽ」が「はひふへほ」になっちゃったから、こういうことが起こったんだね。

なぞなぞ:母には二度会いたれども、父には一度も会わず

 はい、ここで室町時代のなぞなぞなんだけど、今までにお話ししたことを踏まえて、考えてみてください。「母には二度会いたれども、父には一度も会わず」。

―― わかった。

―― え、待って。

―― やった、やった。

川原 もも。

もも 「はは」には点々・丸がどちらも付くけど、父には丸が付かない。

川原 丸と点々、ふたつね。ほとんど正解。ただ、ももの言ったことだと惜しいんだけど、完全な正解じゃないかも。確かに今の書き方だと「は」には丸も点々も付くんだけど、室町時代に平仮名の「ぱぴぷぺぽ」が広まっていたかは怪しいから、ちょっと違うかもしれない。

―― 口が2回、何か唇が付く。さっきやったよね。

川原 そう、正解!「母(はは)」は、昔は「ぱぱ」だったのよ。何か変な感じすると思うけど。

―― 何か頭がおかしくなってくる。

川原 ねえ。面白いでしょう。だから、母は「ぱぱ」だったから2回会うのは「唇」でした。「ちち」って発音しても唇は出会わないものね。

 ここでなみの質問に戻りましょう。「ぱぴぷぺぽの言葉はよく聞くけど、何で英語の言葉が多いの? 例えば、パン、ピアノ、プリン、ペン、ポテト」。何ででしょう? 「ぱぴぷぺぽ」はどうなっちゃったんだっけ、日本語で。

―― はひふへほ。

川原 「はひふへほ」になってなくなっちゃったんだね。だけど、英語から‥‥‥。

―― 外国ではあったから使われていたから、外国のものでは「ぱぴぷぺぽ」を使う。

川原 ほぼ正解。みあ。

みあ さっきの答えとちょっと似ているんだけど、「ぱぴぷぺぽ」はもともと英語にあったんだけど、日本語には「ぱぴぷぺぽ」がなくなった。でも、英語は「ぱぴぷぺぽ」があったから‥‥‥。

川原 そうそう。英語から言葉を借りたんだよね、「ピアノ」とか「プリン」とか「ペン」とか「ポテト」とか、こういうものはもともと日本になかったから、言葉も一緒に借りなければいけなかった。借りたときに「ぱぴぷべぽ」が戻ってきたのよ。もともとあった「ぱぴぷぺぽ」は全部いなくなっちゃって、新しく英語から借りてきた単語だけに「ぱぴぷぺぽ」が使われるようになった。わかった? 

―― うん。

川原繁人(かわはら しげと)

1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。

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