川原繁人
1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。
<質問・番外編>
「なんでプリキュアのテーマソング、今でも覚えているの?」
(2019年までに登場したプリキュア全員の写真を見せる)
―― 右下見てた。
川原 『キラキラ☆プリキュアアラモード』ね。
―― 『プリンセスプリキュア』も見てた。
川原 じゃあ、最近のからいこうか。『スター☆トゥウィンクルプリキュア』ね。この子の名前を覚えている人?
―― ミドリン。
川原 惜しい。
―― ミントみたいな名前だった気がした。
川原 ミントはこの子。この子はミルキーです。
―― ミルキー。
―― 聞いたことある。
川原 この子は?
―― 紫の子といっつも仲がいい。
川原 アムール(=紫の子)と仲がいいこの子は?
―― アムールとムーン、ムーンじゃないな。
―― でも、最初に口がくっつくはずだ。
川原 そうだね、もう私が何を言いたいかわかってるね。この子は、マシェリっていいます。これはマカロン、マジカル、ミラクル、これはプリンセス。こうやってプリキュアの名前を全部調べてみたの。そうしたら、両唇を使って出す音で始まるプリキュアがすごく多いのよ。ちゃんと数えると、半分ぐらいのプリキュアが両唇で始まります。
―― 今のプリキュアもそうなんですか。
川原 いい質問だね。さっき見せたのは2019年までのプリキュアたちなんだけど、その後2020年には『ヒーリングッド♥プリキュア』で、グレース、フォンテーヌ、スパークル、アースが登場しました。ちょっとフォンテーヌもみんなで発音してみようか。フォ、フォ。
―― フォンテーヌ。
川原 フェリーチェと一緒で、唇が閉じるわけじゃないけど。
―― 合わさない。
川原 合わさないけど、近づいているね。これが2021年の『トロピカル〜ジュ!プリキュア』。サマー、コーラル、パパイヤ、フラミンゴ。この中で両唇を使う音を使っているプリキュアはいるかな。
―― パパイヤ。
川原 パパイヤ、そうだね。
―― フラミンゴ。
川原 フラミンゴもそう、いいねいいね、みんな音声学がわかってきたね。
****補足**** ここで「フ」は両唇を使う、と指摘してくれた子はするどいです。「ハ行」の子音というのは、次の母音によって発音の仕方がずいぶん異なります。「ハヒヘホ」では唇は丸まりませんが、「フ」では丸まるのです。ちなみに「フ」の子音は、「ファフェフォ」の子音と同じです。
川原 今年(2022年)のプリキュアのデータはスライドに入ってないな。今のプリキュアは何だっけ。
―― 『デリシャスパーティ・プリキュア』。
川原 そうだ、ありがとう。プレシャス、スパイシー、ヤムヤム、フィナーレがでてくる。プレシャスとフィナーレが両唇を使った音で始まります。
ここで大事なのは、両唇で始まる名前のプリキュアがすごく多いの。どれくらい多いかっていうと、大体1シリーズに必ず1人か2人は出てくる。出てこないのは『ドキドキプリキュア』だけ。全体を見ると半分ぐらいのプリキュアが両唇のプリキュアなんだよね。
―― 両唇のプリキュア。
川原 そう、音声学的に大事なのは、両唇のプリキュアなのよ(笑)
川原 これは普通の名前と比べてみると面白いかもしれない。よし、自分の名前で考えてみよう。自分の名前を発音するときに、両唇が閉じるかどうか考えてみて。それから周りの子の名前も確認しながらチェックしてみて。名前の始めの音だけでいいよ。
(作業)
川原 オッケー。じゃあ、自分の名前が両唇で始まった人、手を挙げてください。みあ、みと、もも、みと、めい。みとが2人いるのか。じゃあ5人かな。今この教室には30人ぐらいいるから、30人中5人が両唇で始まったんだけど、プリキュアは半分ぐらいだよね。
―― 30人中15人ってこと。
川原 そうそう。もし、この世界がプリキュアの世界だったら、半分手を挙げてくれないとおかしかったんだけど、現実世界では5人ぐらいだったのね。何でそうなっているのか不思議だけど、両唇のプリキュアが多い。あともう1個、面白いことに気づいてしまったよ、先生は。何か気が付く?
みあ はい。
川原 はい、みあ。
みあ 全員今手を挙げた人たちは、「まみむめも」の中に最初の文字が入っている。
川原 そうなのよ。両唇で出す音っていっぱいあって、プリキュアはその中でピーチとかパインとか「パ行」も出てくるし、ベリーとかビートみたいに「バ行」も出てくるし、マシェリみたいに「マ行」も出てくるのね。だけど、現実世界、プリキュアではないこの世界では、両唇の音って全員「マ行」なんだよね。あともうひとつ何かちょっと面白いことに気付いたんだけど、今の手を挙げてくれた子を見渡すと、何か気付くと思うんだよね。
―― 女子。
川原 女子。そう。全員女の子だね。
―― うちのお父さん、唇付く。
川原 何ていうの?
―― ミオ。
川原 お父さんミオなんだ。そうかそうか。マコトとかね、両唇の音で始まる名前を持った男の人もいます。
―― そういうこともあるのか。
―― あとマモルとか。
川原 そうだね。確かに男の人の名前が「マ行」で始まっちゃいけないわけじゃないんだけど、「マ行」は女の子の名前に多そうだね。
ちょっとまとめるよ。プリキュアの世界では、両唇の音で始まる名前を持つ人が多い。現実世界よりも多い。現実世界は、いても「まみむめも」しかいないんですね。
―― 何で?
1980年生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。 カリフォルニア大学言語学科名誉卒業生。 2007年、マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。 ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て帰国。 専門は音声学・音韻論・一般言語学。 『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)等、著書多数。